2011年2月28日月曜日

水辺の保全

スウェーデンの海岸沿いや川・湖沿いでは、水辺と森や岩場、そこに点在する赤や黄色の小さな家々によって美しい景観が作られている。
工業区域を除くと、景観を壊すような建物は見られない。

このような景観はどのようにして保たれているのだろうか?


今見られる水辺の家は基本的に、1950年頃までに建てられたものだ。(参照:サマーハウス
現在は、水際から100m以内の区域には原則として新しく建物を建てることは出来ない


水辺保全のための規則はStrandskyddet (水辺の保全)と呼ばれ、法律で定められている
人々が水辺に家を建てるのを好み、水辺が個人に占有されるようになったため、水辺が全ての人に開放されるように、1950年にこの法律が出来た。

水際を中心に、水(湖・川・海)側と陸側にそれぞれ100mの範囲内が規制対象となる。
国立公園などの保護区域では規制範囲は一般的に300mとなり、その他の地域でもコミューンの権限で規制範囲を300mまで広げることが出来る
湖や川、海岸に対して面積の大きさに関わらず適用され、市街地や田舎を問わず規制対象となる。


スウェーデンでは居住地区以外の場所にはアレマンスレット(全ての人が自然の中で自由に行動する権利→参照:アレマンスレット)が適用されており、Strandskyddetにより非居住地区では新たに建物を設ける事が禁止されている。
また、橋や埠頭の建設、道路や駐車場の設置、木をまとめて切り倒すなど、水辺の動植物の生息域を変えるような作業も禁止されている。
以前から水辺に立つ建物も、家からホテルへ、レストランから家へなど、現在の建物の目的と異なる建物に建て替える事は禁止されている。

ただし、道路や鉄道などによって水辺から遮断されている場所では、水辺から100m以内であっても建物を建てることが出来る。他の住宅に囲まれた場所でも同様に可能だ。
また、水辺になければいけない設備や公益の土地利用についてもStrandskyddetは免除されるほか、農林漁業やサーミ人(北部の原住民族)のトナカイ放牧に関する事業もこの法律の規制対象にはならないようだ。


Strandskyddtによる規制を免除してもらうためは、コミューン(市)に申請する必要がある。
人口低密度地域内でコミューンが発展推進地区に指定している地区では、雇用や地域保全に長期的に貢献する場合に免除され易くなっている

規制の免除により建物を設ける場合は、全ての人が水辺に自由に近づけるように(アレスマンレット)、幅10m以上の通路(Fria passage)を設置しなければならない。
この通路は、動植物にとっての環境を保全する役割も果たす
通路の境界は、生け垣やフェンス、木々によって明確にされなければならない。
また、水際にアシが茂っている場合や鳥の繁殖場がある場合には、その場所をはずして通路を設けなければならない。


Strandskyddetについて、Boverket(住宅行政庁) とNaturvårdsverket(環境保護庁)が合同で発行しているおり、その中で、水辺の価値について
「湖や川沿い、海岸や群島の浜辺は、全ての人と水辺に生きる動植物にとって重要だ。」と明言している。
国として、こうした考えを明確にし、実際に水辺保全の計画にまで持って行っている事に感心する。しかも、国内全ての水辺が対象となっているのだから驚きだ。
(Strandskyddの手引書についてはこちら。→Naturvårdsverket


スウェーデンでは、水辺はみんなのための場所なのだ。
以前、ウメオ川沿いの緑道や湖沿いの遊歩道も、こうした“自然環境の優れた場所は皆で共有する”といった視点で作られている(参照:川沿い歩行者自転車専用道路)。

一方、日本の水辺はどうだろう?
海や川での自然災害がスウェーデンよりはるかに大きく、防災面を重視した整備がされているとはいえ、水辺環境はあまりにひどい。
海沿いには鉄道や大きな道路が走り、人々が楽しめるのは線路や道路と海の間のわずかな土地だ。また、多くの川では、人が水面に近づきにくい護岸整備となっている。もちろん動植物への配慮はほとんどない。
近年日本でもビオトープの考え方が進んできているが、公園内の計画設計が中心だ。海や川、湖には、まだまだ活かされていない。
Strandskyddetを一例とする、自然環境の利用と保全に総合的に取り組むスウェーデンの計画を、日本も見習いたいものだ

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