2011年9月25日日曜日

森のムッレ教室 5 教室ごとにテーマ

〜「森のムッレ教室123, 4」の続き〜

森のムッレ教室では毎回リーダーがテーマを決め、そのテーマに即した遊びや学びを行う
テーマは季節や子供たちがその時興味を示しているものに合うように決められる。


スウェーデンの森のムッレ教室ではテーマ選びの参考になるように、各季節ごとのテーマとテーマに即した学びや遊び、皆で話し合う事の例が表として示されており、リーダーに配布される。

表は、秋のテーマと活動内容の例。(表をクリックすれば拡大して見れます。)

この表を見れば、森のムッレ教室において自然を理解することと遊びや歌、話し合いが一連の教育として行われていることが分かる。


森のムッレ教室の中で私が特に良いなと思うもののひとつが、こうしてテーマに即した歌を歌うことだ。
歌を歌うことで自然への親しみがぐっと湧いてくるし楽しい気持ちになり、記憶に残りやすい


森のムッレ教室で用いる歌には、スウェーデンの一般的な子供の歌と リーダーたちが作ってきた歌とがある。
リーダーたちが作ってきた歌には、スウェーデンの一般的な子供の歌のメロディを用いて歌詞を替えた物も多い。こうした替え歌だと、リーダーは歌を作り易く、子供たちは初めて歌う場合でも即時に歌うことが出来る

例えば、上の表の中にある「松ぼっくり」をテーマにした場合の「リスの子が松の木に座っているよ」の歌は、スウェーデンの一般的な子供の歌だ。

  「リスの子が松の木に座っているよ」  
  ♪リスの子が松の木に座っているよ
   さぁ松ぼっくりを食べよう
   子供の声が聞こえてきたよ
   リスの子は急いで木の上で飛び出したらしたら
   小さな足と長くて丸いしっぽをくじいちゃった
   リスの子は野原を駆けてママの所へ帰ったよ
   すぐにベットに寝かされて
   苦い薬を飲まされて
   小さなつま先に絆創膏 しっぽには大きな包帯
この歌によって、テーマである松ぼっくりと周辺のつながりがしっかり頭に描かれる。

 もうひと歌、リーダーたちが作ったもので上の表中にはないけれど素敵な歌があるので、紹介したい。
この歌のメロディは既存の歌からの引用。


  「願い事の石」 
  ♪私の手の中にある願い事の石
   海辺で見つけたこの石
   じっと握れば
   何でも願い事が出来るよ
石を手の中に包んでこの歌を歌っていると、夢や希望で心が満たされてくるだろう。


お話についても、既存の絵本とリーダーたちが作ったお話が用いられる。
上の表の中にある「苔」をテーマにした場合の「森のこびとたち」のお話は、スウェーデンの有名な絵本だ。
森で暮らすこびとの家族とその周りの動植物や妖精たちの暮らしが美しい絵で描かれていて本当に素敵だ。絵の中には苔も多く描かれている。

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このように一回の教室の中にテーマに即した学びや遊び、話し合いがあるため、体験と共に知識がひとつのまとまりとして頭に染み込んで行く




参照:
森のムッレ教室HP日本 本部)/(東京支部)/(新潟支部)/(Sweden)
HPを見る事が出来るのは以上の4つです。東京支部と新潟支部のHPには写真や活動が豊富に載せられています。
これらの場所以外でも日本中に森のムッレ教室のリーダーがおり、幼稚園保育園やボランティアで教室が開かれています。興味のある方は本部や上記の支部に連絡を取ってみて下さい。

森のムッレ教室についての本
ムッレ教室の哲学や理論に加え日本での活動が紹介された深い内容となっていて、本当におすすめの本です。特に、子供や自然、環境づくりに関わる方には是非読んでもらいたいです。

2011年9月15日木曜日

森のムッレ教室 4 自然の階段

〜「森のムッレ教室1, 2, 3」の続き〜 

ここで、森のムッレ教室のプログラムをもう少し詳しく見てみようと思う。

( 以下で使用する図は日本のムッレ教室を取りまとめる組織「日本野外生活推進協会」からもらい、内容はムッレ教室についての本『幼児のための環境教育 スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』を参考にしました。)

( 5−6歳児用のムッレ教室から、1−2歳児用のクノッペン教室、3−4歳児用のクニュータナ教室、小学校低学年用のストローバレ教室、小学校高学年用のフリールフサレ教室まで全てをまとめて用いられている活動名がないため、今後このブログ上では全教室をまとめたものを「森のムッレ教室」とし、5−6歳児用の教室を「ムッレ教室」とします。)


 森のムッレ教室では、自然を理解し環境について考えるために、子供の心身の発達に合わせて一歩ずつ階段を上って行くようにプログラムが組まれている
図は、階段状のプログラム「自然の階段」。

上の絵の「自然の階段」は「森のムッレ教室1」で述べた年齢別の教室に対応している。

 1−2歳児用のクノッペン教室と3−4歳児用のクニュータナ教室は「自然の階段」の1−2段目に当たる。
この段階では、野外で快適に過ごせる服装を準備し、おやつやお弁当を持って楽しく散策出来る能力を身につける

安心して森に出かけることが出来るようになってくると子供たちは、身の周りの物に興味を示すようになる
ここで、3段目のムッレ教室(5−6歳)に続く
ムッレ教室の年齢になると、エコロジーを理解する事が出来るようになり、自然環境で起こる様々な出来事についての知識を吸収する事ができる

そして次の段階として、自然環境と自分たちの社会の関係について一人ひとりが意見を持ち、行動して行くことを目指す(階段4−5段目)
この段階が、小学校低学年用のストローバレ教室と小学校高学年用のフリールフサレ教室に当たる。


 どの段階でもリーダーは、教える立場ではなくあくまで子供の驚きや感動に寄り添い、一緒に考えたり答えを探す相棒としての役目を果たす



このように森のムッレ教室では、子供の心身の発達に合わせて階段状にプログラムが組まれているために、 一歩ずつごく自然な形で自然に親しみながらであるから無理なく理解を深めて行くことが出来る


また、全ての段階で ”体験” を基本としており、体験を通じてこそ深く理解をする事が出来る


 そして、自分の意見を持つ事やそれを人に伝えられる事、自分の学んで来た事が社会にどう還元されるかを常に意識している事は、とてもスウェーデンらしい。
この部分は私がスウェーデンで感じた、スウェーデン社会の最も優れた点のひとつだ。この姿勢があるからこそ、スウェーデンは人にとって暮らし易い社会となっているのではないかと思う。政治への関心の高さもこの辺りに原点があるのではないだろうか。

一方日本はどうだろうか?
今、一人ひとりが ”自分たちの行動によって社会を良い方向に変えて行ける” と自覚することが大切なように思う。

「民主主義を育む」方針は森のムッレ教室の大きな特徴のひとつであり、ひとつの教室の中でも子供とリーダーのやりとりを見ていると随所に感じられる。
リーダーは子供たちが自ら考えて意見を述べるように導き、皆で話し合う場を多く設ける。また、子供の発見や感動に寄り添って共感し、分からないことがあれば一緒に調べる
(参照:森のムッレ教室 2

スウェーデンの教育において、先生と生徒が対等な関係であることや、小グループで話し合って考えをまとめていく授業形式をとるのは一般的だ。こうしたスウェーデンの教育背景に加え、森のムッレ教室では民主主義を育む手法がさらに技術化されている。
この技術は日本のムッレ教室にも受け継がれている。



参照:
森のムッレ教室HP日本 本部)/(東京支部)/(新潟支部)/(Sweden)
HPを見る事が出来るのは以上の4つです。東京支部と新潟支部のHPには写真や活動が豊富に載せられています。
これらの場所以外でも日本中に森のムッレ教室のリーダーがおり、幼稚園保育園やボランティアで教室が開かれています。興味のある方は本部や上記の支部に連絡を取ってみて下さい。

森のムッレ教室についての本
ムッレ教室の哲学や理論に加え日本での活動が紹介された深い内容となっていて、本当におすすめの本です。特に、子供や自然、環境づくりに関わる方には是非読んでもらいたいです。

2011年9月8日木曜日

森のムッレ教室 3 自然を理解することの大切さ

〜「森のムッレ教室 1, 2」の続き〜

森のムッレ教室ではこんな風に、子供が自分たちで自然を発見し興味を持って行く事を軸として関連する遊びや歌を組み込んで行く事で、子供たちは体験を通して自然への理解を深めて行くようになる。
そして、そこには必ず自然の多様性と美しさに対する感動がある。


自然への理解」と書くと、「自然についてそこまで教育しなくても…」と思う人もいるだろう。
けれど私は、今こそ日本そして世界中で森のムッレ教室のような教育が必要だと思う。

ここまで地球が健全でない状態になり、その悪影響が人へも目に見えて振り返って来ている。私たちの社会や地球は「自然教育=自然愛護する人にだけ」という段階ではなくなってきている。

日本では環境保全への取組みは多くされている。活動数やエコの視点や行動が国民全体に行き渡っている点ではおそらく世界でもトップクラスだろう。
けれども、「どうして環境保全が大切か」エコの大元にある「自然とは何か」を理解せずに、環境に良いとされる“方法”だけが広まっているのではないだろうか?

「どうして環境保全が必要か」「自然とは何か」を理解していないと、より良い物を生み出して行く事も出来ないし、流行に踊らされるだけになってしまうのではないだろうか?


私はスウェーデンで暮らして確信した。
人が暮らす環境を考えた時、自然の美しさや大きさこそが人を幸せな気持ちにし日々の活力を与えてくれる。」(参照:ウメオ市街地の自然
住環境の整備において、便利さがある程度整えられた段階で 次に人が求めるものは”心”に訴えかける環境だろう。それが、自然を活かした環境と人と人とがつながる環境だとではないかと思う。
自然は資源としても心を支える物としても人にとって必要不可欠だ。

自然を理解し大切にして行くことは、全ての人が学んで良いことだと思う。
そして、感性が大きく育ちはじめる幼児期にこそ、体中を使って楽しい経験と共に学んで行って欲しい

写真は、ウメオにある森のムッレ教室を取り入れた幼稚園の 森での活動。
「石の下には何があるだろう?」
森を背景に絵を描く。「どんな色が似合うだろう?」
倒木は楽しい遊具。

2011年9月1日木曜日

森のムッレ教室 2 教室の流れ

〜「森のムッレ教室」の続き〜

森のムッレ教室では通常、ひとグループ子供8〜12人でリーダーが2人。
日本の幼稚園保育園での森の森のムッレ教室の場合は、先生一人に対し子供20人以上ということも多い。
子供と対話し発見や考えを引き出して行くためには、1人のリーダーに対する子供が数は5人程度が良い

週末のボランティアによる森のムッレ教室の時間は2〜2.5時間。
幼稚園保育園だと時間はもっと長くなり、一日中森で遊ぶ場合もあるようだ。

森のムッレ教室は、大雨でなければ雨の日でも行われる
雨の日には雨の日ならではの自然や楽しみがあるからだ。どんな天候にも対応出来る服装と準備をしておけば全く問題はない。
実はこの考え方は森のムッレ教室に限らずスウェーデンの幼稚園では一般的で、雨の日でも子供たちはカッパを来て外で楽しそうに遊んでいる。(参照:「万能着」)
そういうわけで、どんな天候にも対処出来るように持ち物は大人顔負けの内容となる。
自然に親しむ第一歩として、リュックサックの中身はいつも子供たちが自分で用意することになっている。


〜さぁ、ムッレ教室が始まります。〜
(今回は5−6歳児用の「ムッレ教室」を取り上げます。
  参照:その他の年齢について「森のムッレ教室1」)

森のムッレ教室ではいつも行く特定の場所を持っており、その場所を“ムッレの場所”と言う。

“ムッレの場所“の入口に着くと、“ムッレの場所“の扉を開けるための鍵として枝や石を拾って来て、歌いながら扉を開ける。
扉は実際には無くて想像上の扉なのだが、このように扉を設けることで得別な場所へ入るわくわくした気持ちが湧いてくる


扉を開けて拠点とする場所に行くまでの道中でも子どもたちは色んな発見をする
いつも同じ場所に行くため日々の変化に気付き易い


拠点となる場所につくとリュックを降ろし、教室が始まる。

(以下は私がリーダー養成講座を受けた時に、講師が見本として実践してくれた一教室です。これはあくまで一例ですがムッレ教室の方針が伝わると思います。)

輪になって座り、辺りに落ちていた松ぼっくりと枝でリーダーが虫を作る。
足は8本。リ「これは何?」/子「蜘蛛。」/リ「じゃあ蟻の足は何本?」というやりとりが行われる。
この蜘蛛の名前を皆で考え、一人ひとりに回して蜘蛛に自己紹介したり話しかけて行く。蜘蛛にちょうどいい声の大きさでひそひそと。
最後は、来週また会えるように分かり易い場所に置いておく。
こんな風に生き物を登場させて話しかけるとぐっと親しみが湧いてくる


次に、リーダーから「色んな葉っぱを3枚ずつ拾って来て。」とのかけ声。
皆で拾い集めた葉っぱを白い布の上に置いて観察する。
リ「色んな色だね。」「これは何色?」/子「黄色」「茶色」と色んな意見。/リ「この辺は黄色いしこの辺は茶色いね」
こんな風にリーダーが質問し、子供たちが五感を使って色んな視点で自然を理解できるよう導いて行く
同じ針葉樹であっても軸の一ヶ所から3枚葉が出ている植物があれば、2枚の植物、一枚の植物もある。リーダーは問いかけながら子供たちに考えさせる
ここで植物ごとの葉の出方の歌を歌う(絵の中の歌を参照)。葉が「座っている」と表現されていて、ユーモアがあるし子供にとってイメージし易い。

森のムッレ教室では、自然についての知識が埋め込まれた歌が多く用いられる自然について何か学んだ時、それに関する歌を歌うと頭にイメージとして入るため分かり易く覚え易いそしてなにより楽しい

その他、ルーペを使っての観察もする。いつもと違うミクロの世界にはたくさんの発見があり、子供たちも興味津々。
子供が疑問を持てばリーダーは子供が答えを導き出せるよう手伝い、分からないことがあれば子供と一緒に図鑑を調べる


しばらくしてから、皆でサンドイッチなどの軽食を食べる屋外で皆で食べるのは楽しい
食べ残しは、“ムッレの場所”の中で一ヶ所決めているコンポストへ。コンポストに残した食べ物が次来た時にどうなっているかを見るのも楽しい。


軽食を食べた後は、「木を交換!」ゲーム。
これは色鬼のようなゲームで、鬼が指定した木を触るために皆が走り回るというもの。
鬼は「遠くの木!」「白樺!」「小さな木!」と木について指定する。
この時、先程観察したり話し合った木についての情報が用いられ、学んだ事が遊びを通して頭と体にしっかり入って行く


他にも、木に登ったり走り回ったりと自由に遊ぶこともある。
自由に遊ぶ際には、木登りをする時には大人が手を貸さない、棒を持って歩かせない、リーダーの目の届く範囲内で遊ぶなどのルールが設けられている。
自然の中には様々な難易度の遊び場があるため、それぞれの子が自分に合った遊びを見つけ、少しずつ難しいことに挑戦して行くことが出来る。このため、森のムッレ教室では実際にケガや事故が少ないそうだ。

こんな風に自然を観察したり遊んだりしながら、教室は終了。
森に残している物はないか確認し、“ムッレの場所”の扉の場所に行く。
扉までの道のりでは、皆で小さな哺乳類になったつもりでお迎えに来た親をキツネに見立て、キツネに見つからないよう隠れながら進んでいく。教室の最後の最後まで楽しくなるような工夫がされる。


扉の所で木や石を拾って鍵を掛け、親が待つ場所へ。
最後に輪になり、一人ひとりの名前を呼びながらバイバイして行く歌を歌って解散。


以上が一回のムッレ教室の例であり、2〜2.5時間で行われる。

こうした教室が毎週あって半年を1つの期間とする。
1期間の最後の日には森の妖精“ムッレ”が森の奥から出て来て、生きている物に気を配り自然の中にゴミを捨てないようにというメッセージを子供に伝える
また、子供たちと一緒に遊びながら森の中で楽しく過ごす方法を教えてくれる
(森のムッレ教室の中で、5-6歳児用のムッレ教室においてのみ妖精が登場します。)
ここで注意しておきたいのは、森の妖精“ムッレ”は架空の生き物ということだ。
架空の妖精を使う必要ないのに…と思う方もいるだろう。私もかつてはそう思っていた。
けれど、ムッレ教室を体験する中で、「架空の物」と思いつつムッレに出会うとわくわくし、どんどん引き込まれて行く自分に気付いた
また、我が子が5歳になり、お化けはいないと言いつつもなんとなく気になっている様や花や木や空を見ながら色々な想像をしている様を見ていると、“想像力が豊かになる5−6歳の時期にムッレのような自然を象徴する存在が自然についてや自然の中での遊び方を教え自然を大切にするよう伝えることで、子供の心にすっと入って行く”とする森のムッレ教室の理論が納得出来た。

下の絵の真ん中にいるのが森の妖精”ムッレ”。
動物たちが作ってくれた緑の服を着、コケモモ色の羽のついたシラカバ帽子をかぶり、ゴミを掃除するためのしっぽを付けている。


参照:
森のムッレ教室HP日本 本部)/(東京支部)/(新潟支部)/(Sweden)
HPを見る事が出来るのは以上の4つです。東京支部と新潟支部のHPには写真や活動が豊富に載せられています。
これらの場所以外でも日本中に森のムッレ教室のリーダーがおり、幼稚園保育園やボランティアで教室が開かれています。興味のある方は本部や上記の支部に連絡を取ってみて下さい。

森のムッレ教室についての本
ムッレ教室の哲学や理論に加え日本での活動が紹介された深い内容となっていて、本当におすすめの本です。特に、子供や自然、環境づくりに関わる方には是非読んでもらいたいです。