2012年4月27日金曜日

小さな園庭でも 1 日本の園庭との比較

さぁ、スウェーデンの園庭についての記事もようやく一段落となります。

これまでこのブログで紹介してきた野外保育園の園庭は、敷地が広いものでした。
記事を読んで下さった方の中には、「広いからこそ出来る環境の良さだ」と思われた方もいらっしゃるでしょう。

けれど、良い屋外環境は 敷地がそれほど広くなくても作ることが出来るのです。

その好例として、ストックホルム郊外にあるVattendroppen(バッテン ドロッペン)野外保育園を紹介したいと思います。(以下、V 野外保育園

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V 野外保育園の敷地面積は600㎡弱。
子供の数は、30人程。

敷地の中央に建物が配置され、建物を庭が取り囲むような形になっている。
園庭は、先の記事で述べたような野外保育園の庭の特徴を有している。
(参照:森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456
園舎は古民家を移築。


ここで、敷地の広さと敷地の用い方を日本の典型的な園庭と比較してみると…。
(日本の園庭は、私の地域にある H保育園を典型例として取り上げています。)

左側の航空写真はV 野外保育園、右側が日本の典型例。
赤枠が敷地、青枠が園舎を示している。



日本のH保育園では園児数が V 野外保育園の2倍近くなので、敷地や建物の広さを比較すると、一人あたりの面積はそれほど差がない。
野外保育園は3歳からの受け入れで、H保育園には小学生の学童放課後クラブ用の部屋や未就園児の一時保育室も併設されている、という違いはある。)


けれど決定的に違うのが、敷地の用い方だ。


V 野外保育園の平面図は次のようだ。
園舎を取り囲む庭には、至る所に遊びと学びの場所が設けられ、植栽も園庭中に施されている



一方、日本の園庭の典型例として取り上げたH保育園の園庭は、
運動場が庭の中央を大面積で占め脇に遊具と数本の木が配置されているだけだ。


H保育園、園舎側。


園舎から見た園庭。


ちなみにこのH保育園は公立だが、園舎は幼児施設を専門とした建築事務所によって設計され、園児の生活空間が熟慮された良い内部となっている。

建物の良さとは対照的なこの園庭を見ると、日本で園庭環境がいかにおろそかになっているかが分かる。
園庭環境を大切にした保育園・幼稚園ももちろんあるのだが、そういった考え方は現在の時点では決して一般的ではない。
(ぜひ皆さんの地域の園庭をご覧になってみて下さい。おそらくほとんどの園で、遊具や木の数に多少の差はあれど、H保育園と同じような庭の作りになっているかと思います。)


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続いて、V 野外保育園の園庭の様子を詳しく紹介します。
(つづく)

2012年4月19日木曜日

植物の移植 2

〜「植物の移植 1」の続き〜

移植するのが木の場合は、掘り下げた根鉢を麻布と縄で巻く。
縄を掛けながら木槌で縄を叩き締め、手際良くリズミカルに根巻き作業が進んで行く。

寝巻きの完成。


木を移植する際には、根は切断されたために水分の吸収力が弱まる
このため、枝葉の剪定を行って葉からの蒸散を抑え、根からの水分吸収量とのバランスを取る


最後に、木を土中から運び出す。

かつては手作業だった運び出しも、今はユンボを用いて吊り上げられるようになった。
根鉢を崩さずにユンボが安定して木を持ち上げられるよう、木の支え手とユンボの使い手は力と頭を使う。




植木職人さんたちの動きを見させてもらいながら、私自身もシャベルを手に移植を手伝わせてもらい、職人の体力と集中力に驚かされた。

あれだけの重労働だと、10時・昼食・3時の休憩は必須だな…と思った。

それにしても、10分休むだけでも見事に回復する人間の体も素晴らしい。
そして、空の下で土と木と働く事は最高に楽しい!

植物の移植 1

庭のリフォーム時には、既存の植物を「その場所に残すか・別の場所に移植するか・伐採するか」を決める。

その際には、それぞれの植物の生育状態や 病・虫害などの被害なく健全に生育しているかといった樹勢樹形移植の難易を見極める。
移植の難易については、木の地上部分の枝数や萌芽力を見ながら 地下部分である根の状態を推し量り検討していく。
また、新たにデザインされる庭に適しているか、庭の方向性や今後の生育環境についても考慮する。

私の師匠は現場を大切にしているため、職人と植物を廻って話し合いながら植物の状態を見る。これよって、既存の植物が活かされやすくなる。


移植については、新たにデザインされた場所に再配置する植物もあるし、今回は用いずに別の機会に用いるためデザイナーや植木職人の元に置いておく植物もある。


* * *
この日は、敷地面積も広くて植物も多く植えられていた庭で移植作業をした。

水仙などの草本から大木までを移植。
(私も草本の移植を手伝わせてもらった。)

ユンボ(油圧ショベル)で土を掘り起こして、次の植樹に向けて土を耕す。
と同時に、電動ノコギリとシャベルを用いて植物を掘り出す。

植物を掘り出す際にはまず、根の形状や性質から根鉢(移植のために掘り取った根)の大きさや深さを決める。
根鉢は「動物にとっての脳」と言う職人もいるくらい重要なので、職人は根鉢を痛めないよう細心の注意を払う

草本類や低木はシャベルのみで掘り出せるが、中高木となるとシャベルだけでは体力的にも時間的にも厳しい。
そこで、根鉢の大きさに合わせて、土に直接電動ノコギリを差し込み、根を切断する。
根を切断したら、シャベルで根鉢周りの土を掘り取る。


(つづく)

2012年4月15日日曜日

植木・花卉生産者

庭に植える植物を買いに行った。

良い仕事をされている植木・花卉生産者の方のところでは、植物が生き生きしている
一本一本が個性を持ってのびやかに成長している。

そんな植物たちの中に立つと、それぞれの個性の豊かさに感動し、どの植物も愛おしく感じる。
どの庭にどの植物を植えようか、その植物の個性をどう活かそうか、と考えているだけで幸せになってくる。

生産者の方は、広い畑に植えられた何百もの植物一本一本を知り尽くしている
その植物の種(しゅ)の性質から 同じ種のなかでも一本一本の異なる性質までを把握し、今後どう伸びて行くかや どういった管理が必要かなど、客の思い描く庭に合わせたアドバイスをくれる。

生産者の方と一緒に畑に立って植物を巡りながら話を聞いていると、一本一本への愛情を感じる
まるで大家族のお父さんお母さんのようだ。

2012年4月3日火曜日

野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 5 集中力

〜「野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 12, 3, 4」の続き〜

集中力のテストでは、ADDESというテストを用いて、担任の先生に集中力に関する調査項目を事前に渡し、項目にあった行動の頻度を記入してもらった。

比較対象となった27項目のうち11項目において大きな差が見られ、スタータレンガン野外保育園の子供たちの方が集中力が高いという結果が出た。


(表は、日本野外生活推進協会から頂きました。)


グラーン博士は、スタータレンガン野外保育園の子供たちの遊びを見ていて、
垣根や木や岩などの起伏のある環境の中で、活発でスピーディな遊びとゆっくりしたテンポの遊びを交互に変えながら自分たちの能力とニーズに合わせて遊んでいることを発見し、
こうした遊び方が「運動神経と集中力をより発達させる重要な理由となっている」と述べている。


これらの研究結果を受けてグラーン博士は、
保育園の野外活動と園庭の環境が子供に大きな影響を及ぼしていることは明らかだ」と主張し、「社会がもっとこの事実を認識し今後に向けて対策を講ずるべきだ」と強調している。

この研究は「Ute på Dagis(保育園の外で)」という本として公表され、スウェーデンの全国新聞などのメディアでも大きな注目を集め、保育関係者にも衝撃を与えた。


(以上の内容は、『幼児のための環境教育〜スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』(岡部翠編 新評論 2007年)のp.6279から抜粋したものです。出版社の了解を得てブログに掲載します。詳しい研究内容と結果・解説については、本をご覧下さい。)

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このように、子供たちは野外でのびやかに遊ぶことによって心身に良い影響が出ることが明らかになっている。

スウェーデンでは、子供たちにとっての野外での活動の需要性が広く認識され、優れた園庭環境が作られて来た。
そして近年、持続可能な社会に向けて 自然や環境をより意識した園庭づくりが成されている。この新たな動きについては、また後日…。

日本の園庭校庭も、より一層 遊びと学びと創造に溢れた場所になれば良いなと思う。



参照:
森のムッレ教室123456
森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456



幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」
幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」